エクストラレッスンのご案内
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12 子どもたちが灯してくれた生命のともしび

かつて藤野で担任をしていた頃、私は、毎日のように、ギターを奏でていました。

子どもたちが帰り、静まり返った放課後の教室の片隅で、その日あったさまざまなことを自分の中に深く沈め消化するために、そして心の奥の本来の自分に繋がるために……。

 

シュタイナーカレッジの教員養成過程を卒業した時、それまでにずいぶんとお世話になっていた故メアリー・エレン・ウィルビーさんが私に向かって真剣な表情でこうおっしゃいました。「シュタイナー学校の担任は孤独だよ。でも、だからこそ何か楽器を手に取り、いつも演奏をしなさい。そうしたら、孤独ではなくなるから……。」

音楽や芸術には、私たちの日常生活を超えることのできる力があります。そうして、その力によってつながることのできる世界こそが、クラスの子どもたちと深く通じ合える世界なのです。私は、そのことを、8年間のクラス担任時代に自分の体験として学びました。

 

 

さて、この1ヶ月間は、たくさんの親御さんや子どもたちが畑にやってきてくださったり、お話をしにきてくださったりしました。体験会としての「うたひめ農園の日」と、入学・転入学のための「お話し会」。私たちはあまり宣伝が得意ではないのですが、いろいろなつながりで、多くの方々が足を運んでくださいました。

 

これまで書いてきたように、私たちはこの一年で、少しずつ、でも確かに、農園での学校の準備を進めてきました。名前も「NARA Steiner School」に決まり、シュタイナー学校や人智学関係のたくさんの方々から、好意的なお声をかけていただきました。具体的なカリキュラムを考えながら、より現実的なイメージが見えてきていました。

でも……、子どもたちが実際に畑にやってきてくれたその日から、そのビジョンがより生き生きと動き始めたのです。

 

 

ある男の子は、田んぼに置かれた足踏み脱穀機を使って、稲の束をしっかり握りながら脱穀作業をしてくれました。大人の人でも躊躇してしまうような仕事に、初めて見たにも関わらず、その子はとても集中して取り組んでくれました。

 

別の子は、2メートルほど下にある用水路からバケツに水を汲んでくれました。どのくらいの量の水だったらロープで引き上げられるだろうかと考えながら、自分の限界に挑戦しながら水を汲み、それを30mほど離れた田んぼまで運んでくれました。

 

一輪車の“運転手”の仕事をやってくれた子もいました。落ち葉がたくさん落ちているクヌギの木などがある林に一輪車を動かして、集めた葉っぱを一輪車に乗せ、それが下り道で落ちないようにと慎重に“運転”しながら、無事目的地の焚き火のところまで辿り着いた時の、その子の満ち足りた顔。

 

高く積まれた薪と落ち葉の山の前に来て、「今から火をつけるよ」と言うと、「えっ、本当につけるの!?」とびっくりしていた男の子もいました。実際にマッチの火がつき、それが燃え移り、火が大きくなっていく場面を初めて見た時の、こわごわとした、でも興味に満ちた表情。

 

そして、出来上がった焼き芋の美味しい匂いをかいだ途端に、パッと輝いた子どもたちの顔、そしてそれをほおばった時の満面の笑み……。

 

畑の中で活動する子どもたちの顔は、本当に生き生きとしています。それを見ると、私の心の中にも、強い熱が湧いてきます。ここを、この子どもたちがより輝ける場所にしていこう、その想いが燃え上がるのを感じるのです。

 

ここに来てくれる○○くんや○○さんのために、より良い活動を作っていこう、そう考えた時に、カリキュラムには命がこもっていきます。

 

まるで、それまで止まっていて、ただ壁にかけられていた絵が、動き出し、色彩がより鮮やかになるように、ここまで準備してきたものに熱い血液が通い出し、生きた存在のようになり、それによって、1年の活動がとても具体的に生き生きとイメージできるようになっていくのです。

 

シュタイナー教育は、「教育芸術」だと言われます。それは、自分達の目の前に来てくれる具体的な子どもたちと魂の奥底でつながり、イマジネーションの力を使って彼らに必要な活動を創造していくプロセスが、日々の教育活動の核となっているからだと思います。

 

藤野で、ギターを弾きながら子どもたちの魂とつながろうとしていたように、今私は、うたひめ農園という場所で、子どもたちの魂とつながろうとしています。

 

畑に、実際に子どもたちが来てくれて、一緒に過ごしたことによって、NARA Steiner Schoolに、尊い生命の火が灯されました。このともしびをしっかり守りながら、より確かなものにしていくことが、ここから新しい年に向けての私たちの仕事です。来てくれた子どもたちの顔を具体的に思い浮かべながら、そしてまだ出会っていないたくさんの子どもたちの顔を思い描きながら、彼らと「地下の通路を通って」つながれるように、準備していきたいと思います。

 

この一年で出会ったたくさんの方々に心から感謝します。2024年が、世界中の子どもたちにとって素晴らしい年になりますように……。

 

20231210

栄 大和